パニック障害の回復アプローチ

パニック障害の方は「この病気は治るのか」ということを常に心配されていることかと思います。私はお医者さんではないので、パニック障害が医学的に治るかどうかを申し上げる立場にはないのですが、元患者として経験的な立場から述べますと、パニック障害は寛解(≒完治)が望める病気ですので、その心配はあまりする必要はありません。

このように述べても、パニック障害の方は「自分だけは治らないかもしれない」と考えてしまいがちですが、その考えはおそらく正しくないです。「100%の回復」までには至らなかったとしても、人生が楽しめるくらいまでの回復であれば、十分可能だと思います。私は自分よりも重症な患者さんを見たことがないのですが、このような私でさえも大きく回復することができました。また、知識のある患者さんに限ると、高確率で大きな回復を手に入れている印象です。

パニック障害は「治る人と治らない人」がいますが、知識が不足している患者さんは「運の良い人は治り、運の悪い人は治らない」と考えていることが多いように感じます。しかし、実際は、治るか治らないかは「適切な治療努力を行ったかどうか」という部分がとても大きいです。ただし、ここで注意して欲しいことが2つあります。1つは「苦労している」ことと「努力している」ことはイコールではないということです。そして、もう1つは、例え努力をしていたとしても「努力の方向性」が悪ければ、よい結果は得られないということです。

「私は病院に行っているから大丈夫」と考えている人は多いのですが、その考えは危険です。実は、かつての私もそのように考えている一人だったのですが、その当時(罹患してから2年間)は、治療が上手く進みませんでした。それどころか、悪化してしいきました。私の場合は、「科学的な治療法を受けることができなかった」という特殊な事情があるのですが、いずれにせよ、パニック障害は「病院にさえ行けば治る」という病気ではありません。パニック障害の治療では、「医師に病状を伝えて、あとは医師の判断次第」という治療法が上手く行かないのです。

パニック障害は、今現在も謎の病気で、なおかつ「慢性疾患」と考えられています。「慢性」とは「長期にわたってなかなか治らないような病気の性質」のことを言います。つまり、パニック障害は「医師が努力しても、速やかに治すことができない病気」ということです。このことは、「パニック障害歴が10年以上」という患者さんが多いことからもわかります。仮にパニック障害が慢性疾患でないとすれば、パニック障害で入院した患者さんは、速やかに治っているはずです。

慢性疾患の場合、「医師の努力」よりも「患者の努力」が重要になってくることが多いです。パニック障害も例外ではなく、大きな回復を手に入れるためには「患者側の努力」が必須になります。イメージ的には、医師の努力が「1」に対して患者の努力が「9」くらいの割合で必要になるかと思います。この数字は私が無理やり出したものですが、患者の努力が無ければパニック障害はほとんど回復しませんので、大きく外れているわけではありません。

ここで、「どういった努力をすればいいのか?」ということが問題になりますが、情報を集めて精査することが第一歩になります。まずは、パニック障害関連の書籍を1冊読むことからスタートするのがいいかなと私は思います。

しかしながら、書籍を読んだからといって、パニック障害がすぐに治るわけではありません。書籍から得た情報を、上手く活用できたときにパニック障害は「回復の軌道」に乗ります。パニック障害について知識量が増えたとしても、それを上手く活用できなければ、当然ながら治療は上手くいきません。従いまして、考えながら治療を進める必要があります。私の経験上の話になりますが、パニック障害で大きな回復を手に入れている人には「情報活用能力に長けている」という共通項があります。これはとても重要なことですので覚えておいてください。

情報を上手く活用できない人は、「これさえやっておけば大丈夫」というような「単調な話」を好みます。しかし、パニック障害の治療においては、こうした考え方は危険です。もし、下記のような思考形態であれば、治療は上手く行かないと思います。

  • 通院しているから大丈夫
  • この薬(あるいはサプリ)を飲んでいるから大丈夫
  • こうした生活習慣を取り入れているから大丈夫

パニック障害の治療では、「こうしておけば大丈夫」という「単調な回復方法」はまだ見つかっていません。もし見つかっているのであれば、パニック障害を治せずに苦労している人は、ほとんどいないはずです。パニック障害の治療過程では、体調や気分は常に変化しますし、状況によって治療法を変える必要があります。つまり、パニック障害患者には、「対応力」が求められています。

「薬を飲めば治る」という病気の場合は、その薬の名前(情報)を知っていれば問題は解決します。しかし、対応力が求められる病気の場合、「情報」の他に、「考える力」が必要になります。パニック障害患者に必要なのは「情報だけではない」ということを覚えておいてください。

パニック障害を治すために、まずは書籍から情報収集することをお勧めしますが、書籍に書いてあることを実践したとしても、「運のいい人」しか治りません。繰り返しになりますが、書籍に書いてあることをそのまま実践して治るのであれば、ほとんどの人はパニック障害を治せているはずです。重要なことは、書籍に書いてあることを、自分用にカスタマイズできるようになることです。なぜカスタマイズが必要かと言いますと、人それぞれで病気の症状も違いますし、また、人間の脳は個人差が大きいからです。これらのことについては、また別の記事で詳しくお伝えしたいと思います。

「カスタマイズはお医者さんがしてくれるもの」と考えている人は多いのですが、それを適切に行える医師は皆無に近いです。それが上手く行かないため、治らない人が多いのです。しかし、「知識を身に付けた患者」であれば、「適切なカスタマイズ」は十分可能です。これも重要なことですので覚えておいてください。

ここで「なぜ、お医者さんはカスタマイズできないのか?」という疑問が湧いてくるかと思いますが、その答えはシンプルです。「精神的な苦痛」は、例えお医者さんであても、第三者からはわからないからです。パニック障害の場合、病状の大きさを客観的に測る方法がありません。問診だけでは限界がある、ということになるかと思います。

さて、治療を適切にカスタマイズするためには、患者が医療に積極的に参加する必要があります。ところが、多くの日本人は「医療は医師からのトップダウンで行われるもの」と思い込んでいて、実際はそうなっていないことが多いです。また、中には「患者は医療に参加してはいけない」と思い込んでいる人もいます。しかし、これらの考えは「急性期のみ」に当てはまる考えです。つまり、急性期を過ぎたら採用するべきではありません。従いまして、闘病期間中のほとんどは、患者は自分で治療の判断をすることになります。

患者が医療に積極的に参加することを「アドヒアランス」といいます。他の先進国では、アドヒアランスは一般的で、日本でもこの考えは広がりつつあります。パニック障害を大きく改善させるには、適切なアドヒアランスが必要になります。

「アドヒアランスとは具体的には何か?」ということなのですが、これはお医者さんに「この薬は効いていないので必要ないと思います」であるとか、「この薬は増量する必要があると思います」といったことを伝えることです。

ここで注意点があります。患者が医療に積極的に参加しても、「適切なアドヒアランス」ができなければ効果は得られないということです。かえって悪化するケースも有り得ると思います。そうならないように、患者側はパニック障害について勉強をする必要があります。最低でも、「無知識で医療に参加する」という状況は避けなければなりません。そのため、書籍を複数冊は読んで、治療過程の疑問をひとつひとつ解消させておく必要があります。「お医者さんに遠慮してアドヒアランスができない」という人もいますが、アドヒアランスは失礼なことではありません。

適切なアドヒアランスを行うために、最初は書籍から情報を集めることになりますが、今は様々な書籍があります。「薬は使うべきだ」と主張する書籍もあれば、「薬は必要ない」と主張する書籍もあります。また、患者さんが「このようにしたら治った!」ということを書籍にまとめていることもあります。おそらく、最初はどの本を読めばいいのか迷うことになるかと思いますが、とりあえずは、いろいろな本を読んでみるのがいいと私は思います。繰り返しになりますが、パニック障害患者には、「情報」の他、「それを活用する能力」も必要になります。情報活用能力(「情報を多面的・多角的に吟味しその価値を見極める能力」の意味)は一朝一夕には身につかないので、患者は「たくさんの情報に触れて、考える」という作業が必要になります。

なぜ情報活用能力が必要になるかといいますと、「適切なアドヒアランス」を行うということは、言い換えれば「回復プロセスの仮説を立てる」ということだからです。「仮説を立てる」ときくと大げさに聞こえますが、お医者さんに「私はこういう状況なので、この薬を使った方がいいと思います」と伝えることは、実は「こうした方がいい」という仮説を立てていることに他なりません。つまり、患者は仮説を立てられるくらい情報を収集しなければならないということです。

いきなり「仮説」と言われても、この表現にピンとくる人は少ないかと思います。しかし、パニック障害を治すためは「治療全体の回復プロセスについて仮説を立て、それを実証する」という経験が必要になります。今はあまり理解できなくても、頭の片隅に入れておいてください。詳しくは、別の記事でお伝えしたいと思います。

私が最初に立てた仮説は次のようなものでした。

「パニック障害については、専門家(医師)に任せるのが一番いいはずだ」

この仮説は外れていて、私は2年間にわたって科学的な治療すら受けることができませんでした。実は、私が闘病中の頃(2000年代)は、パニック障害の治し方を知らないお医者さんは普通にいました。当時の私は、「ほとんどの医師は、高レベルな医療水準を満たしている」と思い込んでいたので、このような「無謀な仮説」を立ててしまったのです。

罹患してから2年くらいが経過したとき、私は書籍から「自分に行われている治療法が適切でない」ということを知りました。そこからパニック障害について猛勉強し、転院し、数年後に大きな回復を手に入れることができました。

今現在は、標準治療(科学的な治療法)を知らないお医者さんは減っていると思いますが、いなくなったわけではありませんので注意が必要です。また、「標準治療を知っているけれど、標準治療を信頼していないので採用しない」というお医者さんもいるかと思います。

私の場合は「標準治療すら受けることができなかった」というケースだったのですが、仮に標準治療を最初から受けることができたとしても、患者側に知識が必要なことには変わりありません。実は、今現在も標準治療の精度は「極めて高い」というレベルではないからです。

パニック障害についての知識を身に付けた後、私は次のような仮説を立てました。

「パニック障害患者同士は、病状が驚くほど酷似している。おそらく、パニック障害患者同士は、脳の同じ部位に同じ問題を抱えているだろう。もしそうであるならば、治った人と同じようなことをすれば同じような経過をたどって治るはずだ」

結果的に、この仮説はあたっていて、この仮説によって私は回復の手がかりを掴みました。闘病中は、こうした仮説をいくつも立てていくことになります。行き当たりばったりの治療法では、時間と精神力だけを消耗し、なかなか良くなっていかないと思います。